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【今後の練習予定】

 

 

5/16 アカデミー湯島

5/23 アカデミー向丘

5/30 アカデミー向丘

(いずれも19:30~21:30)

森山至貴先生の熱き想い ~混声合唱組曲「鼓動」の作曲に寄せて~ 【7回連載】

 Ensemble Polanoは結成10周年記念のコンサートで、仁階堂孝の指揮のもと、混声合唱組曲「鼓動」(作曲・森山至貴、詩・田中佐知)を委嘱初演します。

 演奏会に先立って、作曲家の森山至貴さんにお話をうかがいました。森山さんの詩や言葉への思い、和声への深い愛情、そして組曲「鼓動」の作曲秘話などを、7回に渡ってお届けします。

 

 回目のテーマは、「言葉への思い」です。

<第1話森山さんにとってのユニゾンとは?はこちらから>

   <第2話コード進行はこちらから>

<第3話「森山さんが作曲する時一番好きな作業は何か?」はこちらから>

<第4話「組曲構成(長さとテンポ)」はこちらから>

 

<第5話「同世代の詩人、現代詩の言葉に向き合う」はこちらから>

<第6話「森山流の「翻訳」」はこちらから>

 

最終回の7回目は、「言葉」という存在にどんな思いを寄せているか、森山さんにたっぷりと語っていただきます。

【文責・sop 小国綾子】

 

        

 

山さんと言葉との幸せな関係

 組曲「鼓動」の4つの詩のうち、2つの詩には、「言葉」あるいは「ことば」という語句が用いられています。2曲目の「逃げた言葉」と、4曲目の「鼓動」です

 そもそも、森山さんにとって「言葉」とはどんな存在なのでしょうか。

 次に引用するのは、森山さんが雑誌「洪水」2013年夏号に書かれたエッセイです。

 

 「詩人という一個の表現者が全き完成形として発表した作品に牽引されながら、音符と休符が独自の秩序を形成し始め、作曲者単体では作り得なかった表現の形を獲得するのが、さまざまな編成の音楽の中で『うた』という編成だけが持つ最大の面白みである。そしてそのような現場に立ち会えるのは、『うた』を書く作曲者だけに許された、最高に刺激的で幸福な体験である」

 

 森山さんにとって、「最高に刺激的で幸福な体験」は、言葉があるからこそ、可能になるというわけです。森山さんが今回の組曲「鼓動」の2曲目のために選んだ詩が「逃げた言葉」です。詩はこんな風に始まります。

 

「わたしの心が ふと 視線を 外したら 捕らえかけていた 言葉が 逃げていってしまった」

 

そしてこんな風に終わります。

 

「たぶん 言葉は うれしそうに 暗い葉陰の中で ひっそりと 煌めいているかもしれない」

 

森山さんはこの詩、どんな風に感じたのでしょうか。

 

<面白い詩だと思いました。「言葉が逃げていってしまう」というのは本来、言葉を扱っている人にとってはネガティブなことだと思うのですが、佐知さんの詩自体はなんだか楽しげなんですよね。「言葉は逃げていってしまうけど、そういうもんだよね」とほほえんでいるかのような。言葉が逃げていってしまうことを、むしろ、楽しんでいる感じすらある。これは詩人でなければ表現できない、と感じ入りました>

 

さらに、森山さんはこの詩に、佐知さんの詩人としての等身大の喜びを見出します。

 

<佐知さんは、言葉が、コントロールのきかない、とらえようのない存在であることが、ある種の喜びだったのではないかと思うのです。言葉は逃げていってしまうもの。でも、だからこそ、私に驚きや喜びをもたらしてくれるのだと。あるいは、私がこの詩をそう解釈したのは、私自身が「言葉が逃げていってしまう」ことを歓喜ととらえる人間だからなのかもしれません。言葉が、コントローラブルでないこと、自分の思うようなことが言えない存在だからこそ、言葉は常に私に驚きをもたらしてくれるのだと思うので。だから今回は、音楽の方も独白的な口調で、素直に書いてみました>

 

ところで、この「逃げた言葉」の楽譜をいただいた時の第一印象は、「矢野顕子さんのピアノの弾き語り曲みたい!」でした。そんな感想を正直に森山さんに告げてみました。

そしたら、森山さん、「そうです。この曲のピアノはぜひ矢野顕子さん風に!」と。実は森山さんは矢野顕子さんのピアノが大好きだそうで。

 

<もしも誰かピアニストの腕と自分の腕を交換できるとしたら、誰がいい?って言われたら、僕は矢野顕子って答えます。それこそポリーニとかアルゲリッチとかではなく。矢野顕子さんをまず、ピアニストとして好きです。もちろん歌い手としても、曲を書く人としても好きですけど。ああいうピアノを弾けるようになりたい、って気持ちはいつもありますね>

 

さて、再び、言葉のお話。

4曲目の「鼓動」の詩の最後の連にも、「ことば」という語句が登場します。

 

「饒舌なことばは地に沈み 鼓動だけが しずかに 世界をつつむ」

 

これが今回の組曲「鼓動」の最後をしめくくる一節なのです。

森山さんは「饒舌なことば」を、そして、組曲タイトルにも選ばれた「鼓動」という言葉を、どんなふうに受け止めているのでしょうか。

 

<言葉にできないから人が音楽をするのだとすれば、音楽に言葉はいらない、つまり歌はいらないはず。歌う人間はいつもこの矛盾を抱えています。そのことと、「饒舌なことば」が地に沈むと言葉で表現することを選ぶ詩人の矛盾には響き合うものがある、と思うんです。そして、鼓動が続くかぎり私たちは沈黙の中から再び言葉をつかみとることができる。気高き沈黙と、それでも語らざるを得ない人間のあいだをつなぐただ一つの美しい音、それこそが鼓動なのだと思います>

 

        

 7回にわたる森山さんのインタビューにお付き合いくださってありがとうございました。

 自称「コード進行命人間」の森山さんは、実は、同時代に生きる詩人たちの言葉を受け止め、独創的に翻訳し、音楽の世界をより自由にしたいと願う人でもあるんですね。

 そんな森山さんの組曲「鼓動」をぜひ、ぜひ、聴きにいらしてくださいね。Ensemble Polanoの第三回演奏会(4月1日午後2時開演、川口総合文化センターのリリア音楽ホール)でお待ちします。

(以上、20183月上旬に行われた2時間におよぶロングインタビューから、テーマに添って7回連載に構成しました)